2012年4月28日土曜日

GERD診断における症状の把握は?:問診票の有用性 | パリエット Www.pariet.jp


群馬大学医学部附属病院 光学医療診療部准教授 草野元康

はじめに

 GERDは欧米のみならず日本でも患者の増加とともに疾患としての認識も高まり、本邦でもcommon diseaseの一つとして、日本消化器病学会でのGERDガイドライン策定が最終段階となっている。先行する欧米ではGERDの定義やガイドラインも続々と発表され、Montreal定義・分類1)、アメリカ消化器病学会(AGA)よりGERD managementに関するtechnical review2)3)が出ている。本稿では、GERDの診断、とくに問診について述べる。

Montreal definitionの「胸やけ」

 Montreal定義1)ではGERDは「胃内容物の食道内逆流によって起こる不快な症状あるいは合併症があるものとする」と定義されている。その症状は食道症候群(定型的逆流症候群・逆流性胸痛症候群など)と食道外症候群(逆流性咳嗽症候群・逆流性喉頭炎症候群・逆流性喘息症候群・逆流性歯牙酸蝕症、咽頭炎・副鼻腔炎・特発性肺線維症・反復性中耳炎)に分けられ、まさに多彩な症候群を呈している。「不快な症状」とは、軽度症状が週2日以上または、中等度/重度症状が週1日以上発生したときとされている。胸やけはGERD症状の主症状であり、欧米では一般住民の25%に少なくとも月1回の胸やけを認め4)、日本でも初診外来および初回内視鏡施行患者の42%に胸やけを認めている5)。週2回以上の胸やけが、Quality of Life(QOL)を低下させるとの報告6)もあり、GERD治療の最終ゴールであるQOL改善においても、胸やけ消失が重要である。


最高の減量のエクササイズ機器

「胸やけ」の評価−問診票の必要性−

 GERD診断に最も重要なのは症状の把握である。的確な問診で「胸やけ」をうまく拾い上げることが必要であるが、「胸やけ」は個人の解釈により大きく異なる。医者、看護師、健康成人、逆流性食道炎患者、非びらん性胃食道逆流症患者の間で「胸やけ」の認識がそれぞれ異なることが知られている7)。また胸やけの強さとGERDの重症度は必ずしも相関せず、高齢者では若年者に比べて重症GERDの合併が多いが、逆に重度胸やけを訴える頻度は低い8)。ゆえに、「胸やけ」のみを尋ねて診断すると包括的なGERD診断が行えない可能性が生じる。
 われわれは初期診断および治療効果判定に有用な問診票の作成を目的として、Los Angeles(LA)分類Grade M以上の逆流性食道炎患者に50個の症状に対する質問を行い、回答数の多かった上位の12問を選出し、Fスケール(Frequency Scale for Symptoms of GERD : FSSG)を作成した。LA Grade M以上ではcut offを8点以上とし、感度62%特異度59%、一致率60%であった9)(図1)。最近ではFスケールを用いてGERD薬物治療の効果判定や、さらには治療効果予測10)にも活用されている。この12の質問項目は後から検討してみると酸逆流に関連する(reflux symptoms)7項目と、運動不全に関連する(dysmotility-like dyspepsia)5項目で構成されていることに気づいた。後者は内視鏡の重症度にかかわらずPPI治療によく反応することからacid-related dyspepsiaと呼べるものであり11)、このような症状が多いこともわが国のGERD患者の特徴の一つと思われる。

 表1にGERD治療効果判定に理想的な症状問診ツールの条件を示す。Fassの総説12)をもとにして、世界で使用されている14のGERD問診の特徴を、感度・多角的な症状把握、自己記入、Daily評価、精神心理学的価値別に表2にまとめた。多くのGERD症状の問診が存在することはいかにGERD症状の把握が難しいかを表し、それぞれの問診票の特徴を理解した上で、用途によって選択することが肝要である。また最近、米国FDA(Food and Drug Administration)は、医師の評価ではなく患者自身による健康状態やQOLの評価を重要な指標とするガイドラインを提示し、その目標とするところは"Patients reported outcomes"である13)。わが国でも患者による疾患特性のある"Patients reported outcomes"(自己記入型症状問診票)を開発することは、今後ますます重要になると考えられる。

表1:GERD治療の症状変化をモニターできる理想的な評価ツールの条件

  1. GERDに対する感度
  2. 典型的、非典型的GERD症状の頻度と強さをカバー
  3. 多角的な症状をカバー
  4. 精神心理学的特性の立証
     (妥当性、信頼性、感度、反応性)
  5. 早期治療反応性の反映
  6. dailyな活用可能
  7. 実用的・経済的
  8. 患者自身が評価
  9. 理解しやすさ
  10. 多くの言語で利用可能

表2:GERD症状評価ツールの特徴


コロラドうつ病治療センター

文献

1)Vakil, N., et al. : Global Consensus Group. The Montreal definition and classification of gastroesophageal reflux disease : a global evidence-based consensus. Am. J. Gastroenterol., 101(8), 1900〜1920(2006)
2)Kahrilas, PJ., et al. : American Gastroenterological Association. American Gastroenterological Association Medical Position Statement on the management of gastroesophageal reflux disease. Gastroenterology, 135(4), 1383〜1391(2008)
3)Kahrilas, PJ., Shaheen, NJ., Vaezi, MF. : American Gastroenterological Association Institute ; Clinical Practice and Quality Management Committee. American Gastroenterological Association Institute technical review on the management of gastroesophageal reflux disease. Gastroenterology, 135(4), 1392〜1413(2008)
4)Moayyedi, P., Talley, NJ. : Gastro-oesophageal reflux disease. Lancet, 24, 367(9528), 2086〜2100(2006)
5)大原秀一、草野元康ら:全国調査による日本人の胸やけ・逆流性食道炎に関する疫学的検討、日本消化器病学会雑誌(0446‐6586)102巻8号、1010〜1024(2005)
6)Dent, J., et al. : Symptom evaluation in reflux disease : workshop background, processes, terminology, recommendations, and discussion outputs. Gut, 53 Suppl 4 : iv1〜24(2004)
7)Manabe, N., et al. : Differences in recognition of heartburn symptoms between Japanese patients with gastroesophageal reflux, physicians, nurses, and healthy lay subjects. Scand. J. Gastroenterol. 43(4), 398〜402(2008)
8)Johnson, DA., Fennerty, MB. : Heartburn severity underestimates erosive esophagitis severity in elderly patients with gastroesophageal reflux disease. Gastroenterology, 126(3), 660〜664(2004)
9)Kusano, M, et al. : Development and evaluation of FSSG : frequency scale for the symptoms of GERD. J. Gastroenterol., 39(9), 888〜891(2004)
10)Miyamoto, M., et al.
: Frequency scale for symptoms of gastroesophageal reflux disease predicts the need for addition of prokinetics to proton pump inhibitor therapy. J. Gastroenterol. Hepatol., 23(5), 746〜751(2008)
11)Kusano, M., et al. : Proton pump inhibitors improve acid-related dyspepsia in gastroesophageal reflux disease patients. Dig. Dis. Sci., 52(7), 1673〜1677(2007)
12)Fass, R : Symptom assessment tools for gastroesophageal reflux disease (GERD) treatment. J. Clin. Gastroenterol., 41(5), 437〜444(2007)
13)Guidance for Industry : patient-reported outcome measures : use in medical product development to support labeling claims. 2006. Available at : http://www.fda.gov/cder/guidance/index.htm



These are our most popular posts:

診療録 - Wikipedia

患者の基本情報: 氏名・年齢・性別・住所・保険証番号等; 主訴(CC; Chief Complaint): 胸痛・発熱といった、患者が来院するきっかけとなった主な訴えであり、診療はここから 始まる。 現病歴(現症)(PI; Present Illnessまたは O.C; onset and course): いつから、 ... read more

急性冠症候群(ACS): 冠動脈疾患: メルクマニュアル18版 日本語版

ACSは,胸痛または胸部不快感を主な症状とする30歳を超える男性および40歳を 超える女性(糖尿病患者ではより若い)において考慮するべきである。 ..... score for ST- elevation myocardial infarction: a convenient, bedside, clinical score for risk assessment at presentation. ... いくつかの有効なツールはリスクの層別化に役立つ ことがある。 read more

ゾルミトリプタンのページ

2006年2月19日 ... ゾルミトリプタン(ゾーミッグ) 適正使用のためのツール・文書; 4つのアドバイスとお薬の 飲み方; こんな時は、こうしましょう; 片頭痛の主な特徴; 服薬上の注意(詳細版) ... prefer the zolmitriptan orally disintegrating tablet to the rizatriptan wafer tablet: An assessment of taste and ease of use. .... 脈がみだれる (不整脈)、激しい胸の痛み・ 背中の痛み・胸がしめつけられ る・冷や汗・顔色が青くなる・手足が冷たい・ ... read more

教育のツールは胸痛の患者が圧力のテストで決定するのを助けます

2012年4月12日 ... 彼らの未来の心臓発作の危険について教育され、決定の心配オプションにかかわった 胸痛の患者は循環の研究に従って圧力のテストから、選択するために ... 胸痛、 8000000 の忍耐強い訪問のための米国の病院、アカウントおよびヘルスケアの約 $8 十億の. ... Health Discovery launches MelApp for melanoma risk assessment Women with ACS receive inferior or less aggressive treatment compared to ... read more

0 件のコメント:

コメントを投稿